中国消費財ブランド向け 日本市場参入ガイドブック
(五)

二、ブランドの日本進出プロセスと法規制

  1. 人材の派遣と採用

3.1 本社から役員を日本へ派遣

単に会社を設立するだけであれば、わざわざ在留資格を取得する必要はありません。しかし、本社から駐在する役員が日本に滞在し、その会社を経営・管理する場合は、在留資格を取得する必要があります。従業員に必要とされる在留資格には、一般的に以下の種類があります。

第一種:永住者

「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」、「定住者」、これらは就労活動に制限のない在留資格であり、在留資格を変更することなく起業することができます。

第二種:経営·管理

「経営・管理」は在留資格の一種であり、自ら起業し、経営者として事業を開始する場合などが含まれます。

会社設立後、在留資格申請書、事業計画書、税務署へ提出した書類の控え、およびその他の必要書類を整理し、居住予定地を管轄する地方出入国在留管理局へ在留資格「経営・管理」を申請します。原則として本人が申請する必要がありますが、地方出入国在留管理局長に届け出た弁護士や行政書士などの指定代理人(申請取次者)が申請を行うことも可能です。許可が下りた後、出入国在留管理局は申請人本人または代理人に通知します。

在留カード(長期ビザ)を取得する流れは以下の通りです:

  • 「在留資格認定証明書交付申請」の場合(通常は申請人の本国で受け取る):郵送されてきた『在留資格認定証明書』を本国の日本大使館/日本領事館に提出し、ビザを受け取ります。または、日本での上陸審査時に在留カードを受け取ります。
  • 「在留資格変更許可申請」の場合(通常は日本国内で受け取る):これは既に他の在留資格を所持して日本に居住している人が、活動内容を変更し、新たに在留資格「経営・管理」に該当する活動を行う際に行う申請です。申請人本人または指定代理人は、申請人のパスポートや既存の在留カードなどを持参し、新しい在留カードを受け取りに行く必要があります。

第3種:高度専門職

「高度専門職」は在留資格の一種であり、認められた主たる活動を行いながら、それに関連する事業を展開し、自ら経営することが許可されます。

企業の役員が高度人材の条件を満たす場合、高度専門職の在留資格を申請することもできます。日本で従事する活動の違いにより、「高度人材」の在留資格を取得できる外国人は以下の3種類に分けられます。

  • 「高度学術研究活動」:日本の公私機関との契約に基づいて行う研究、研究の指導または教育活動(例えば、大学教授、研究者など)
  • 「高度専門・技術活動」:日本の公私機関との契約に基づいて行う、自然科学または人文科学の分野の知識や技術を必要とする活動(例えば、新製品の開発活動を行う企業の従事者、国際弁護士など)
  • 「高度経営・管理活動」:日本の公私機関において事業の経営を行いまたは管理に従事する活動(例えば、グローバルに事業を展開する企業の管理者など)

上記3種類の「高度人材」については、厳格な要件があります。「高度学術研究活動」および「高度専門・技術活動」の人材について、申請人は以下の要件のいずれか一つを満たす必要があります:修士号以上の学歴かつ年収2000万円以上、または、従事しようとする業務に関連する10年以上の実務経験を有し、かつ年収2000万円以上であること。「高度経営・管理活動」の人材について、申請人は以下の要件を満たす必要があります:5年以上の企業経営または管理の実務経験を有し、かつ年収4000万円以上であること。

第四種:スタートアップビザ(特定活動)

 「特定外国人起業家」は、「経営・管理」の要件を満たしていなくても、関係する地方自治体および所轄の地方出入国在留管理局の審査を経ることで、起業準備活動のために最長1年間、日本に入国および在留することができます。この1年間のうちに、経営者が経営管理の資格要件を満たした場合は、地方出入国在留管理局へ経営管理の在留資格を申請することができます。

上記の在留資格以外で、在留資格を変更せずに事業活動を行った場合、資格外活動に従事しているとみなされ、不法な状態となります。起業して事業を経営する際には、「在留資格変更許可申請」を提出し、速やかに適切な在留資格を取得してください。

関連規定は日本経済産業省のウェブサイトhttps://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/startupvisa/index.html で確認できます

上記の『在留資格認定証明書』を取得した後、国外にいる経営者は本国の日本大使館・領事館を通じてビザを申請でき、日本に到着した後は出入国在留管理官署で在留カードを受け取ることができます。

図表70 スタートアップビザ申請フロー

資料出所:mipro、和君コンサルティング整理

3.2 本社からの一般従業員の日本派遣

経営陣の日本への派遣に加え、会社の事業活動に伴い一般従業員を日本へ派遣する必要がある場合、会社と従業員が以下の条件を満たしていれば、3ヶ月から5年の在留期間が付与される「企業内転勤」ビザを選択できます。

① 従業員がITエンジニア、技術者、経理担当、翻訳者、デザイナーなど、「技術・人文知識・国際業務」のビザ要件に該当する活動に従事すること。

② 従業員が会社と労働契約等を締結していること。

③ 会社の経営状況に問題がないこと。

④ 海外の事業所から期間を定めて転勤すること。

⑤ 転勤直前に海外の本店、支店、その他の事業所において、「技術・人文知識・国際業務」に該当する業務に継続して1年以上従事していること。

⑥ 海外の会社と日本の会社との間に、資本関係等に基づく関連性が証明できること。

⑦ 日本人が従事する場合と同等額以上の報酬を受けること。

⑧ 素行が不良でないこと(犯罪歴がない等)。

備考1:「企業内転勤」ビザを申請するには、以下の「技術・人文知識・国際業務」ビザに関連する業務類型に該当する必要がありますが、学歴および実務経験の要件は、「技術・人文知識・国際業務」ビザの要件に比べて大幅に緩和されています。

図表71 「技術・人文知識・国際業務」ビザに関連する業務類型

資料出所:和君整理

備考2:このビザの申請に必要な詳細な手続きの流れや書類については、出入国在留管理庁の「企業内転勤」ページ https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/intracompanytransfee.html をご参照ください。

3.3 現地採用・雇用

本社から役員や従業員を日本へ派遣することに加え、会社の発展や事業拡大に伴い、業務上のニーズや戦略的考慮に基づいて現地スタッフを採用・雇用する必要が生じる場合があります。現地スタッフを雇用することで、企業は事業のコンプライアンス(法令順守)を確保できるだけでなく、現地のビジネス環境にうまく適応し、それを活用することが可能となり、企業の長期的な発展と成功を推進することができます。

(1)現地スタッフ採用のメリット

  • 法令要件の充足:特定の役職は日本居住者が就任しなければならないといった法的な要件を満たし、企業運営の適法性を確保できます。
  • ビザ制限のない柔軟性:現地スタッフはビザや在留資格の制限を受けないため、法令に違反しない限り、会社が必要とする様々な役職や業務に柔軟に就くことができます。
  • 文化への深い理解:日本人スタッフは現地のビジネス文化や人文環境に対して深い理解を持っているため、会社が現地市場にうまく溶け込み、円滑に事業を推進するのに役立ちます。
  • 高い専門性:日本の労働市場では、優れた教育や専門的なトレーニングを受けた、高い専門性を持つ人材が多数育成されています。
  • 低い離職率(定着率の高さ):日本の従業員は比較的安定志向が強く、離職率が低いため、企業が事業の継続性と安定性を維持するのに寄与します。
  • コミュニケーションの障壁の解消:現地スタッフは顧客、ビジネスパートナー、地域社会と円滑にコミュニケーションをとることができ、言語や文化の壁を減らすことができます。
  • 企業イメージの向上:現地スタッフを雇用することは、現地市場における企業のイメージアップにつながり、企業のグローバル化とローカライズの融合を示すことができます。
  • 現地リソースの活用:現地スタッフは通常、幅広い現地のリソースやネットワークを有しており、企業がこれらのリソースをうまく活用し、市場を開拓する助けとなります。

 (2)日本の人材雇用モデルの分類

A. 勤務形態:フルタイム、非正規雇用、顧問(アドバイザー)に分かれます。

  • フルタイム(正社員等):従来のフルタイム雇用モデルであり、従業員は通常、会社の指定する時間と場所で勤務します。
  • 非正規雇用:パートタイム、アルバイト、時間給労働者などが含まれ、勤務時間や業務の性質がより柔軟です。
  • 顧問:フリーランスや独立した業務委託の形で、企業に専門的なアドバイスやサービスを提供します。

B. 雇用形態:無期雇用、有期雇用、業務委託、人材派遣に分かれます。

  • 無期雇用(正社員):従業員は企業と期間の定めのない労働契約を結び、安定した地位と福利厚生を享受します。
  • 有期雇用(契約社員):従業員は企業と期間の定めのある労働契約を結び、契約期間満了後に更新または終了となります。
  • 業務委託(プロジェクト型):企業が特定のプロジェクトや業務を個人またはチームに委託し、業務完了に伴い契約が終了します。
  • 人材派遣:人材派遣会社を通じてスタッフを雇用し、スタッフは派遣会社の指示に基づき企業のために働きます。

C. 新たな働き方モデル:

  • 複数モデルの組み合わせ:企業は業務ニーズに応じて、上記の多様な雇用形態を柔軟に組み合わせます。
  • リモートワーク(遠隔指導):情報技術を活用し、従業員は会社のオフィスから離れた場所で勤務し、遠隔通信を通じて業務指導やコラボレーションを行います。
  • 在宅勤務(テレワーク):従業員は主に自宅で勤務し、インターネットや通信ツールを通じて同僚や顧客と連絡を取り合います。

社会経済の発展と技術の進歩に伴い、日本の企業は変化し続ける市場環境と人材ニーズに適応するため、より柔軟で効率的な人材採用モデルの模索と導入を続けています。

 (3)日本の人材市場の特徴

A. 特有の社会経済環境と保守的な意識:

長年にわたり、日本経済は低成長が続いており、これが給与水準の向上に影響を与えています。その結果、人材は求人に対してより慎重になり、キャリア構築に対してもより高い要求を持つようになっています。

日本の島国という地理的特性や歴史的背景は、比較的保守的な国民意識を生み出しており、これは職場において、変化への抵抗や伝統の尊重として現れます。日本の「終身雇用」や「年功序列」(業績ではなく勤続年数に基づく昇進・給与体系)は、依然としてある程度存在しています。これは人材の流動性やイノベーション能力に影響を与えていますが、同時に従業員にある程度の職業的安定をもたらしています。

日本は深刻な人口高齢化問題に直面しており、出生率の低下によって労働市場が逼迫しています。また、「再雇用制度」の確立は、定年退職者に職場復帰の機会を提供し、シニア層の再就職を後押ししています。

B. 厳格で規範的な法規制:

日本の採用領域においては、成熟した制度と厳格な法規制が人材市場の基盤を形成しています。これらは主に以下の5つの側面を含みます:

  • 包括的な権利保護:日本の法規制は、正社員、契約社員、派遣社員を問わず、すべての労働者の権利を強力に保護しています。福利厚生、雇用保障、解雇制限のいずれにおいても、関連法令は労働者の正当な権利を守るために継続的に強化されています。
  • 厳格な採用規制:法規制により、求人情報の真実性と正確性が厳しく求められており、個人情報の不適切な取得は禁止されています。また、「同一労働同一賃金」の原則が強調され、すべての労働者が同じ業務において公平な報酬を得ることが確保されています。
  • 規範化された企業の実務:人材の職業選択の自由を尊重しつつ、企業は通常、自社の利益を保護するために、退職金規程、秘密保持契約(NDA)、競業避止義務などの条項を厳格に定めます。
  • 高いコンプライアンス意識:採用活動において、企業および仲介機関(紹介会社等)がルールを順守する意識が強く、これは日本の人材市場では普遍的な現象です。
  • 透明性の高い市場環境:中国市場と比較して、日本の人材市場では、中抜き(直接取引による仲介外し)、不当な契約条項、手当たり次第の推薦、違約金の支払い遅延などの不適切な行為は極めて稀です。

このような成熟し規範化された市場環境は、人材の権利を保護するだけでなく、企業の安定した発展に強固な基盤を提供しています。

(4)日本の主な採用チャネルと雇用形態

A. 直接採用(ダイレクトリクルーティング):

  • 社内リファラル(従業員紹介)、従業員の人脈ネットワーク、オンライン採用プラットフォームなどを通じて人材を直接募集します。
  • 日本にいる中国人スタッフや、日本での留学・就労経験のあるスタッフを活用して推薦を受けます。
  • 専門学会や政府機関からの推薦を通じて、適切な候補者を獲得します。
  • LinkedInやFacebookなどのSNSプラットフォームを活用し、自主的にスカウト・採用を行います。

B. ヘッドハンティング会社(人材紹介会社)経由:

  • 日本での人材採用能力と経験を持つ中国系ヘッドハンティング会社と提携します。
  • 企業が日本に設立した現地法人を通じて、日系の人材紹介会社と契約し、求人を公開します。

注意:日本の法規制(職業安定法等)により、日本の人材紹介会社は中国企業の現地法人(中国本国)と直接契約を結ぶことはできず、必ず中国の現地人材紹介機関を通じて提携する必要があります。

C. 日本現地の求人広告メディアおよび採用プラットフォームの活用:

  • ビズリーチ(Bizreach)、エン転職、マイナビ、Indeed、doda、EFAなど、日本の求人サイトやプラットフォームを利用して求人情報を掲載します。

D. その他の形式:

  • 企業による直接検索:企業の人事部門や採用チームが、専門のデータベース、SNS、業界フォーラムなどのチャネルを通じて直接潜在的な候補者を検索し、スカウトメールを送ります。
  • 広告掲載:オンライン求人サイト、新聞、雑誌、業界誌など様々なメディアやプラットフォームで求人広告を出し、応募者からの自主的なエントリーを集めます。

(5)募集ポジションの定義と求人票の作成

採用にあたっては、以下の事前準備を行い、よくある落とし穴に注意する必要があります:

  • 役職レベル、権限と責任、レポートライン・管理体制、人件費(給与)、必須条件(マスト要件)などを正確に定義します。
  • 募集ポジションに必要なコアスキルや経験要件を合理的に設定し、詳細かつ効果的な職務記述書(ジョブ・ディスクリプション/JD)を作成します。
  • ベンチマークとなる企業や、ターゲットとする人材像(ペルソナ)の調査と確定を行います。
  • 面接官および選考フローの選定・設計を行います。
  • よくある落とし穴:抽象的で漠然とした求人内容や要件設定、簡略すぎたり曖昧で非現実的な職務記述、広すぎる/高すぎる/低すぎる給与設定、中国本土の従業員向け福利厚生制度の単純な当てはめ、現場(配属部門)と人事(HR)または紹介会社との間での情報伝達のズレや認識不足。

(6)日本の労働法概況

雇用関係において、企業によく見られる場面および順守すべき主な労働法令の条項は以下の通りです:

図表72 主要な労働関連法規の条項一覧

資料出所: BIPO TIMES「日本労働法および雇用条例の解説」

A. 残業について:

『労働基準法』では、日常の労働時間、休憩時間、休日などのルールが規定されています。業務において、使用者が残業代を支払う場合であっても、事前に労使協定(いわゆる「36協定(サブロク協定)」)を締結する必要があります。この協定がない場合、法定労働時間を超える労働や法定休日での労働は禁止されています。

『労働基準法』第36条に規定されている「時間外労働および休日労働」に関する法令は以下の通りです:

図表73 日本の『労働基準法』における残業および休日労働に関する説明

資料出所:日本の『労働基準法』

B. 解雇について:

『労働基準法』等における解雇の規定は非常に厳格です。解雇には「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」であると認められなければならず、これに該当しない場合は解雇権の濫用として無効とされます。したがって、正当な解雇を行うためには、まず就業規則等にあらかじめ解雇事由を明確に規定しておく必要があります。さらに日本では、当事者同士で和解する場合を除き、一定の金銭を支払うことで労働契約を一方的に解除すること(金銭解決制度)は法的に認められていません。

図表74 日本の『労働基準法』における解雇に関する説明

資料出所:日本の『労働基準法』

やむを得ず従業員を解雇する必要がある場合、その協議の場には会社の関係者(経営陣、HRなど)または第三者としての弁護士のみが同席できます。法的には、それ以外の者の同席は認められません。

以下の状況においては、法律により解雇が制限されています:

  • 業務上の負傷や疾病による療養のための休業期間およびその後30日間
  • 産前産後の休業期間およびその後30日間
  • 従業員の「国籍、信条、社会的身分」を理由とする解雇
  • 女性であることを理由とする解雇
  • 女性従業員の「婚姻、妊娠、出産、産前産後休業の取得など」を理由とする解雇
  • 育児休業または介護休業の申し出、あるいは取得を理由とする解雇
  • 労働組合の組合員であること、労働組合に加入したこと、労働組合を結成したこと、正当な組合活動に参加したことを理由とする解雇
  • 労働基準監督署長に対し、労働基準法違反の事実を申告したことを理由とする解雇

 *従業員が試用期間中であっても、入社後14日以内であれば即時解雇が可能ですが、解雇時には依然として客観的かつ社会的に妥当な理由が必要です。

C. 労働組合について:

労働組合とは、日本の労働者が自らの権利を守り、労働条件や職場環境を改善し、職場の価値を高めるための組織です。日本では、労働組合がその役割を果たすために必要な権利が憲法によって保障されています。これらの権利には、「団結権」(労働者が労働組合を結成または加入する権利)、「団体交渉権」(労働条件などについて使用者と交渉し、協約を結ぶ権利)、および「団体行動権(争議権)」(要求が受け入れられない場合にストライキなどの争議行為を行う権利)が含まれます。これらは総称して「労働三権」と呼ばれます。

この労働三権を保障するために『労働組合法』が制定されています。『労働組合法』は、労働組合が使用者と「労働協約」を締結する権限を与えており、使用者が労働組合や組合員に対して「不当労働行為」を行うことを禁止しています。「不当労働行為」には主に以下のものが含まれます:

(1):労働組合に加入したこと、または正当な組合活動に参加したことを理由に、解雇、降格、減給、ハラスメントなどの不利益な取り扱いをすること。

(2):正当な理由なく団体交渉を拒否すること。

(3):労働組合の結成や運営を支配または介入すること、あるいは労働組合の運営経費に対して経理上の援助を与えること。

(4):労働委員会への救済申し立てを行ったこと、または労働委員会に関する手続きにおいて証言等を行ったことを理由に、労働者に対して不利益な取り扱いをすること。

また、労働者が労働時間中に使用者と協議・交渉を行う場合、『労働基準法』等の関連規定に基づき、使用者は当該時間に対しても基本給、福利厚生、その他手当を規定通りに支払うことが求められる場合があります。さらに、労働組合または労働者が使用者から不当労働行為を受けた場合、労働委員会に対して救済を申し立てることができます。

毎年2月頃からは、日本の労働組合が「春闘(しゅんとう)」を行う時期となります。大部分の日本企業にとって毎年4月が新しい会計年度(新年度)の始まりとなるため、労働組合は毎年2月頃を機に労働条件に関する要求を提出し、経営陣と交渉して決定を図ります。企業側が3月頃に回答を行うことから、「春闘」と呼ばれています。春闘の期間中、労働組合が企業に交渉・決定を求める主な内容は以下の通りです:

(1):基本給、賞与(ボーナス)等の一時金;

(2):労働時間の短縮、ワークライフバランスの実現;

(3):単身者以外の世帯を持つ従業員が、質の高い仕事をこなしつつ家族と過ごす時間を増やせるよう、より快適でゆとりのある職場環境や風土を構築すること;

(4):「ベースアップ(通称:ベア)」、すなわち基本給の水準の引き上げ。なお、「ベア」と定期昇給(定昇)は全く異なります。「定期昇給」は年齢や勤続年数に応じて基本給が上がる仕組みですが、「ベア」は年齢や勤続年数に関わらず、すべての従業員の賃金水準を一律に引き上げることを指します。2000年以降、日本経済の低迷とデフレの持続により、多くの企業が労働組合からのベア要求に応じられない状況が続きました。しかし、2014年以降、日本経済が徐々に持ち直すにつれて、業績が回復してきた日本の大手企業の一部が再びベアを実施し始めています。

さらに、春闘は正社員の労働条件や環境の改善にとどまらず、パートタイム、アルバイト、契約社員などの非正規雇用者の労働条件・環境の改善にも力を入れており、近年、春闘における交渉内容はより複雑かつ多様化しています。

  1. 事業拠点の選定

オフィスの開設

日本で本格的に事業を展開しようとする企業にとって、自社のオフィスを構えることは非常に重要です。

第一に、オフィスの立地や雰囲気は、商談を有利に進める上で有益です。オフィス開設予定のエリア環境や交通ネットワークを調査した上で、適切な物件を選ぶべきです。例えば東京都内でオフィスを開設する場合、渋谷駅や六本木駅周辺にはIT企業のオフィスが集中しています。このように同業他社が密集するエリアにオフィスを構えることで、商談や人材採用の機会を創出しやすくなります。

第二に、室内空間や立地などの要素は企業のブランディングと密接に関連しており、適切な物件を探すことが極めて重要です。ブランディングに必要な要素は、商品やサービスの品質だけではありません。同業他社が密集するエリアにオフィスを構えること自体が、自社の事業が順調に発展していることをアピールする材料にもなります。

さらに、オフィス物件探しは採用マーケティングの観点からも重要です。求職者の中には、仕事内容や雇用条件だけでなく、オフィスの立地や職場環境を重視する人もいます。例えば、見晴らしが良く交通アクセスの良いオフィスは採用に有利に働き、オフィスビルの外観やエントランスの雰囲気も重要となります。優秀な人材を惹きつけやすくするためには、慎重にオフィス物件の探索を行う必要があります。

(1)オフィス物件の探し方

  • 不動産ポータルサイトでの検索
  • 該当エリアの不動産会社からの紹介
  • 自治体や商工会議所からの紹介
  • 開業支援サービスへの相談
  • 知人や取引先からの紹介

(2)オフィス物件の賃貸フロー

希望物件が決まった後、オフィス物件を賃貸し入居するためには、審査を受ける必要があります。

ステップ1:候補物件の内見申し込み

まずは候補物件の内部状況を実際に確認するため、内見(実地調査)を申し込みます。不動産会社が提供する情報と実際の状況が異なる場合があるため、直接現地へ行くことが非常に重要です。物件のレイアウトや状態を正確に確認するため、筆記用具、メモ帳、不動産会社から提供されたオフィスレイアウト図(間取り図)、カメラ、メジャーを持参してください。内見中は、内装の寸法や高さをレイアウト図に記入し、気になる点があればメモを取ります。オフィスの内装や外観は従業員のモチベーションに影響を与えるため、オフィス周辺の環境や既存テナントも併せて確認してください。

ステップ2:入居申し込みおよび審査

内見終了後、該当物件を賃貸することが決定したら、入居申し込みを行い、審査を受けます。入居申込書に記入し、以下の書類(入居申込書、登記簿謄本、事業計画書、財務諸表など)を添えて不動産会社に提出します。通常、入居申し込みから数日以内にこれらの書類を提出する必要があります。書類の提出が遅れると、入居審査を通過できないリスクがあるため、この点には注意してください。

ステップ3:賃貸借契約の締結

入居審査を通過し、貸主(オーナー)の承認を得たら、賃貸借契約を締結します。賃貸借契約の締結前に、通常は不動産会社から「重要事項説明」を受ける必要があります。重要事項説明書の内容を十分に理解しないまま物件を賃貸すると、入居後にトラブルの原因となる可能性があるため注意が必要です。契約書に署名捺印することで、賃貸借契約の締結が完了します。賃貸借契約書には賃料、賃貸面積、引き渡し時期などが明記されているため、署名前にすべての内容を理解しているか必ず確認してください。

(3)オフィスの開設にかかる概算費用

東京23区の中心部を例にとると、新規にオフィスを開設する費用は、平均して坪(約3.3平方メートル)あたり月額30万から60万日元の間となります。30坪のオフィスの場合、1年間の総費用はおおよそ1000万から2000万日元になります。

以下は、30坪・月額30万日元のオフィスを賃貸した場合を例とした開設費用の見積もりです。

図表75 オフィスの開設に必要な各費用

資料出所:和君整理

上記のように、物件取得費(賃料の目安は坪あたり月額1万日元程度)と内装工事費が、オフィス開設費用のほぼ半分を占めています。ただし、物件の広さや賃料などの条件によって費用は増減します。物件の規模や工事内容によっては、内装工事費だけで500万日元もの差が生じることもあります。

また、オフィスの内装工事費は平均して坪あたり20万~40万日元の間です。飲食店やサービス業などの店舗(内装工事費は坪あたり約30万~50万日元)は特殊な設備や機器を必要としますが、シンプルな内装のオフィスであれば、費用は比較的低く抑えられます。すでに内装が施された居抜きオフィス(セットアップオフィス)を賃貸し、大規模な改装を必要としない場合は、この部分の費用を削減、あるいは不要にすることができます。

4.2 実店舗(営業店舗)の開設

対外的な営業を行う実店舗の開設は、オフィスの開設に比べてより複雑なビジネス上の意思決定であり、対外的な事業運営や業務展開に有利かどうかの考慮がさらに重要となります。ここでは主に、店舗開設に必要な準備資料、手続きの流れ、および順守すべき法規制等について説明します。事業運営に関する具体的な部分は、他の業界調査レポートにて提示します。

(1)出店地域の決定

まず、企業は事業展開の状況に応じて商圏調査を実施し、出店エリアとターゲットとなる物件を決定する必要があります。店舗を賃貸する際には、物件の状態を把握し、権利関係を確認し、契約条項を精査する必要があります。賃料や共益費のほかに、契約には権利金(礼金)、敷金、保証金、不動産仲介手数料などが含まれる場合があります。したがって、契約締結時には、これらの支払額が妥当であるか、予想される売上とコストのバランスに見合っているかを検討する必要があります。

(2)出店準備

店舗の施工過程において内装業者を選定する際は、事前にその業者が手掛けた過去の事例を確認し、物件オーナーの意見を聞くだけでなく、信用調査を行うことも有用です。工事を計画通りに進めるためには、工程表を作成し、自ら工事の進捗状況を把握しておく必要があります。

本格的な内装工事に入る前に、店舗の申請者は内装設計図を持参して所轄の消防署に相談し、物件の内装が消防法およびその他の関連法令(例えば飲食企業の場合は食品衛生法等)に適合しているかを確認する必要があります。

内装設計図が関連法令に適合していることが確認できたら、工事の準備を進めます。飲食企業の場合、各種申請に必要な書類等を工事終了日の約10日前(各行政区によって求められる期限は異なります)までに保健所へ提出する必要があるため、申請者は審査に遅れが生じないよう、申請書類の準備が間に合わない事態を避けるために内装スケジュールを調整する必要があります。

また、飲食企業において、店舗の収容人員が30人以上となる場合、日本の消防法の規定に基づき、1名の「防火管理者」を選任しなければなりません。防火管理者の主な業務は、消防計画の作成、定期的な消防訓練の実施、店内の消防設備の定期点検、火気使用の監督などです。延べ面積が300平方メートル以上の飲食店は、所轄の消防署へ「甲種防火管理者」の選任届出を行う必要があり、延べ面積が300平方メートル未満の飲食店は「乙種防火管理者」の選任届出を行う必要があります。

日本総務省消防庁公式サイト:https://www.fdma.go.jp/

日本全国の消防署連絡先マップ:https://www.soumu.go.jp/menu_sosiki/annai/map-1.html

(3)行政機関への申請

通常、以下の許可の取得や届出が必要となります:

  1. 許認可:業種によっては出店に際し法的な許可や認可が必要です。具体的な届出先は業種によって異なりますが、窓口は通常、都道府県庁やその他の公的機関、保健所、警察署となります。業種ごとの注意事項については、後続のレポートにて提示します。
  2. 開業届出:以下の場合、該当する機関への申請および届出が必要です。

税務署:個人事業主の場合は開業後1ヶ月以内、法人の場合は設立登記日から2ヶ月以内に開業届出書を提出する必要があります。また、各地方自治体の税務機関へも「事業開始等申告書」を提出する必要があります。

社会保険事務所(現・年金事務所):社会保険(健康保険および厚生年金保険)について、法人は業種を問わず、常時1人以上の従業員を雇用する事業所であれば加入が必須です。個人事業主の場合(商業・工業等)は、常時5人以上の従業員を雇用する事業所において加入が義務付けられます。

公共職業安定所(ハローワーク)/労働基準監督署:労災保険と雇用保険は、常時1人以上の労働者を雇用する場合に加入が必要です。雇用保険は雇用した月の翌月10日までに公共職業安定所に提出し、労災保険は事業開始後10日以内に労働基準監督署へ届け出る必要があります。

(4)開業相談

各地域の商工会には経営相談窓口が設けられており、経営者からの相談に対応しています。日本では、商工会と良好な関係を築くことが、事業を成功させる上で大きな助けとなります。

(5)店舗開設にかかる概算費用

東京23区の中心部において、約10坪(約33平方メートル)の飲食店を開設する場合を例にとると、賃料は月額約100万日元、敷金100万日元、礼金100万日元程度が目安となります。

図表76 店舗の開設に必要な各費用

資料出所:和君整理

さらに、出店後は運転資金も準備しておく必要があります。運転資金は、店舗運営に必要な経費(食材費、水道光熱費、人件費など)の支払いに充てられます。運転資金の目安として、開業準備資金の3分の1程度を用意しておくとよいでしょう。