灼見 | 富穆X和君Xサリバン:国産コスメが日本市場を開拓する「工具箱」を点検

中国の新進気鋭コスメブランド「花知晓」(Flower Knows)は、“究極の少女感を創造する”ことをコンセプトに掲げています。「顔立ちで惹きつけ、品質で掴む」というモットーの下、初めて日本市場に進出した際、単月出荷額で1,000万元近く(約1億6,000万円)という優れた成績を収めました。日本市場への海外業務拓展開始からわずか2年で、花知晓はPLAZA、LOFT、Champ de Herbe(シャンドエルブ)といった日本国内の1,000店以上の店舗に販路を拡大しています。看板商品の「テディベア口紅」は日本アマゾンの口紅カテゴリで連日売上1位を獲得し、ティーン向け雑誌『Popteen』による「日本の女子高生が一番好きなコスメブランド」にも選出されました。花知晓の日本市場での成功は、単なる売上データの列挙ではなく、中国国産コスメブランドの新たな可能性を示すものとなっています。

2021年頃から、中国国内のコスメ市場の成長ペースは鈍化し始めました。一因として、コロナ後の経済成長が期待ほど伸びず、消費者の支出意欲や消費マインドが低下し続けたことが挙げられます。また国内コスメブランドのイノベーションが明らかに息切れし、製品の同質化が進んで価格競争が激化した結果、ブランド側の収益を圧迫していることも大きな要因です。このため、海外市場を開拓して新たな成長エンジンを求めることが、現在の国産コスメブランドにとって主旋律となっています。

中日両国は肌の色や質感が似ているため、中国コスメブランドが日本市場に参入する際、製品処方やカラー展開を大幅に調整する必要がありません。これは参入コストや難易度を大きく下げる利点となっています。さらに日本市場は消費能力が高く、カテゴリ浸透率も高く、消費者認知も広範です。中国ブランドにとって市場啓蒙や消費者コミュニケーションにかかる時間と手間を省けるため、現在日本市場は国産コスメブランドにとって海外進出先として最も注目すべき選択肢となっています。

しかし、世界第3位の化粧品・日用品市場である日本のコスメ業界は競争が熾烈です。資生堂、花王、高絲(コーセー)といった日本の老舗ブランドだけでなく、ロレアルやエスティローダーなど海外の大手ブランドもひしめいています。「先行する強敵あり、後ろからは追い上げあり、無数の死屍累々」と形容されるのが日本コスメ市場の常態です。そんな「神仙打架」(神々の戦い)、「巻きに巻いた競争」の市場環境で、無名に近いブランドが日本全網で刷屏(バズ)を起こすまでに至った花知晓は、いかなる戦略を採用したのでしょうか。他の中国系コスメ企業への示唆は何でしょうか。

01 策略一:日本文化を深く理解し、ターゲット市場を正確に定める

花知晓ブランド成功のカギは、ターゲット市場の精確な設定にあります。創業者の包子氏とHana氏自身がコスプレイヤーで二次元文化に強い関心を持っていました。中国ではアニメやロリータ文化は一部の限られた層で流行するニッチな存在ですが、日本では既に社会一般に認知・受容されたメインカルチャーとなっています。そこで花知晓は2019年末、海外展開の第一歩として二次元文化の濃厚な日本市場を選択しました。これは日本市場の需要に合致したのみならず、ブランド宣伝や市場教育に要するコストを大幅に削減することにもなりました。

花知晓は二次元文化をブランドの核に据え、コア顧客を日本の二次元メイク愛好者、コスプレイヤー、ビジュアル系デザイナーなど特定層に絞りました。同ブランドのコスメ製品は色彩が大胆かつ創造的で、日本の従来型コスメの単調な色合いを打ち破る差別化に成功し、日本の消費者から高い評価を得ました。

図表1 花知晓の二次元スタイルが濃厚なメイクアップ製品

画像出典:ネット

Gracemodeによる調査では、日本の消費者にとって製品のパッケージデザインも購買を左右する重要な要因です。約半数の消費者が「見た目が可愛かったから」「キラキラして綺麗だったから」という理由でコスメを購入した経験があると回答しています。また、「パッケージデザインが気に入って商品を初めて購入したことがあるか」という問いには、およそ80%の消費者が「はい」と答えました。

図表2「化粧品の購入を包装デザインがきっかけとなった経験はありますか」

出典:Gracemode

図表3「製品の包装デザインがきっかけで初めて購入したことがあるか」

出典:Gracemode

こうした傾向を踏まえ、花知晓は製品パッケージにも創意工夫を凝らしています。パッケージデザインは、日本の消費者に好まれる二次元・ロリータといったテーマスタイルを軸に、「ユニコーン」「テディベア」シリーズなどを展開しました。斬新なテーマ性を持つパッケージデザインは、日本の消費者がコスメに求める高いビジュアル要求に応えるもので、短時間で消費者の目を引きつけ、花知晓の市場競争力向上に寄与しました。

図表4は花知晓のテディベア口紅のパッケージ例、画像出典:ネット

画像出典:ネット

さらに、花知晓の全体的なパッケージスタイルは日本の「少女文化」とも共鳴しています。花知晓はパステルカラーを巧みに使い、「少女感」を演出することで強烈なビジュアルインパクトを与えています。実際、日本の特殊な家制度や父権的社会構造の下、「少女文化」は長年にわたり浸透しています。日本では女性を褒める際、「美人だね」よりも「可愛いね」という評価の方が高い価値を持ちます。「可愛い(かわいい)」要素は、日本のあらゆる年代の女性消費者から支持される要素です。花知晓のブランド定位や製品デザインは、この日本の少女文化に合致しており、日本人女性の全年齢層の審美観にマッチしています。

図表5は花知晓の華やかでバラエティ豊かなパッケージ例

出典:花知晓公式Weibo

また、花知晓はパッケージ素材の選定においても日本人の「もったいない」精神に配慮しています。「もったいない」は元々仏教における「物体」の否定語に由来し、現在では主に物や資源の浪費に対する惜しさを表現する言葉です。日本は資源に乏しいため、商品パッケージにはできるだけ環境に優しく耐久性の高い材料を用い、資源の無駄遣いを避けようとする傾向があります。花知晓はこの点に着目し、パッケージに高品質で耐久性のある素材(アート紙、アクリルなど)を採用しました。不要な廃棄物を出さないことで「もったいない」精神に沿うとともに、製品の保護性能も高めています。

02 策略二:オンラインとオフラインの両輪で、全チャネル販売ネットワークを構築

ターゲット市場を精確に捉えた戦略に加え、花知晓はオンライン・オフライン両面でのチャネル構築にも注力しました。それに先立ち、花知晓は日本のオフライン化粧品小売の状況を徹底的に調査しています。NTTコミュニケーションズの調査によれば、日本の消費者は購入前にサンプル試用によって製品を評価する傾向が強いことが分かっています。30.8%の消費者が「サンプルを試して満足したので購入を決めた」と回答しています。日本ではドラッグストアやコスメセレクトショップなどオフラインの販売店が数多く存在し、各地域の商店街やショッピングエリアに広く分布しています。オンライン通販や独立系ECサイトに比べ、ドラッグストアやコスメ専門店などオフライン店舗は取扱商品がより充実しており、テスター(試供品)も提供しています。そのため、日本の消費者は初めてのブランドや製品を購入する際、まずは店頭で試してから判断する傾向があります。一度そのブランドや製品への信頼を確立してから、オンラインでリピート購入するケースが多いのです。

図表6 日本の消費者が化粧品を購入する決定要因

データソース:NTTコミュニケーションズ

このように、中国ではECがコスメ販売チャネルの主流ですが、日本では販売チャネルがより多様化しています。オンライン通販のほか、コスメ専門店や百貨店などオフラインチャネルも重要な地位を占めています。中でもドラッグストアは全体の31.4%と最大のシェアを誇ります。日本で一般的なドラッグストアには、ウエルシア、マツモトキヨシ、ツルハドラッグなどがあります。

図表7は2023年中国コスメ市場の販売チャネル割合

出典:Euromonitor

図表8は同年日本の販売チャネル割合

出典:Euromonitor

図表9はウエルシア薬局の店舗例

画像出典:ネット

図表10はツルハドラッグの店舗例

画像出典:ネット

日本のオンライン・オフライン全チャネル環境を深く理解した上で、花知晓はデジタルと実店舗の二軸展開を選択しました。オンラインとオフライン両面からのアプローチによって、消費者により便利な購買体験を提供するとともに、個々のニーズにも対応しています。オンラインでは、花知晓は現在Amazon日本、アリババ国際站、eBayなど主要な国際ECプラットフォームに出店しています。オフラインではLoFt、PLAZA、東急ハンズなど多くのコスメセレクトショップに商品を卸しており、カバー率は90%を超えます。さらに、現地で豊富なマーケティング経験を有するブランドマネジメント会社(例:摩柯〈MOKE〉)と提携し、日本の流通業者との橋渡しを行うことで、全国約1,000店舗ものバラエティショップやドラッグストアに商品を供給できる体制を築きました。この施策によりブランドは大量の消費者と直接接点を持つことが可能となり、知名度と影響力を飛躍的に拡大させました。

03 03 策略三:多様なマーケティング手法でブランドの評判を確立03 策略三:多様なマーケティング手法でブランドの評判を確立
統合マーケティングの利点は、効果の最大化だけでなく、コストやリソースの節約にもあります。異なるマーケティング活動やチャネルを統合することで、企業はマーケティング全体をより良く掌握し、重複や無駄を避けることができます。また、統合マーケティングは顧客のロイヤルティや口コミ効果を高め、さらなるビジネス機会をもたらします。中国と比べ、日本のコスメ市場では統合マーケティングがより成熟しており、オンライン広告費でブランド評判を醸成するだけでなく、コラボ企画、屋外広告、電車内吊り広告、短編ドラマCMなど多彩な手法でブランド知名度とイメージ向上を図っています。 例えば、日本では次のような多彩な広告手法が活用されています。 • コラボレーション企画: コンビニのローソン×ハローキティ、ユニクロ×ちいかわのコラボキャンペーンなど。 • 屋外広告: 味の素やサントリーによる大規模な屋外看板広告の展開例。 • 電車内吊り広告: 西川やノジマ電機による電車車内の吊り広告事例。 • 短編ドラマを使ったマーケティング: 日清食品によるウェブ短編ドラマ仕立ての広告事例。

 

図表11 コラボレーションマーケティング事例(ローソン×ハローキティ、ユニクロ×チカワ)

画像出典:ネット

図表12 味の素、サントリー屋外広告マーケティング事例

画像出典:ネット

図表13 西川・野島電気電車吊り広告マーケティング事例

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図表14 日清のショートドラママーケティング事例

  

画像出典:ネット

このように日本の統合マーケ手法を研究した上で、花知晓は日本市場においてオンライン・オフライン双方で多様な広告投放戦略を展開し、ブランドの影響力と好感度を拡大しました。

オフライン施策として、2021年に花知晓は韓国でデビューし日本や東南アジアでも人気のある宮脇咲良さんをブランドのアジアアンバサダーに起用し、東京の主要エリアで屋外広告を展開しました。HKT48出身の宮脇咲良さんは日本国内およびアジアで高い知名度と影響力を持ちます。彼女をブランド大使に迎えたことで、花知晓はブランドの若々しいイメージを強化するとともに、00後世代女性アイドルのマーケットタグと結びつけることでブランドの吸引力を高めました。宮脇さんの影響力を借りて、花知晓は日本市場で一躍脚光を浴び、売上や取扱店舗数は前年から3倍以上に増加しました。

図表15は宮脇咲良さんが花知晓アジアブランド大使に就任した際の広告ビジュアル

出典:花知晓公式Weibo

オンラインでは、花知晓はTikTok、Twitter、Instagramといった日本で人気の複数のソーシャルメディアを積極的に活用し、短期間で大量のフォロワーを獲得しました。現在では花知晓は日本市場でフォロワー数が最も多い中国コスメブランドの一つとなっています。これら海外向けSNSプラットフォーム上で、花知晓は画像や動画を主体とした広告・製品紹介コンテンツを発信し、潜在顧客の興味を惹きつけて消費者の粘着性(ロイヤルティ)を高めています。

図表16は日本における主要SNS利用率ランキング

データ出典:Statista

図表17は花知晓のオンライン広告出稿例

画像出典:ネット

04 策略四 現地に根差したプロモーション戦略で、消費者のブランド認知を向上

消費市場の成熟度が高く、地域特性が色濃い日本において、花知晓は市場の特性を深く理解し、消費者の内なるニーズを掘り下げた上でローカライズしたプロモーション戦略を打ち出しました。これにより、消費者のブランドに対する認知度や愛着心を高めることに成功しています。

例えば収納の面です。世界銀行のデータによれば、2021年の世界平均一人当たり住宅面積は38.6平方メートルであるのに対し、日本はわずか35.2平方メートルと平均を下回り、先進国の78.7平方メートルと比べても大幅に狭い水準です。手狭な住宅事情ゆえに、日本人は日常的に収納術を磨いており、物の整理整頓に対する意識が高いと言えます。花知晓はここに着目し、「1万円以上の購入でバレンタイン限定収納ボックスをプレゼントする」という販促策を打ち出しました。この施策は日本人の消費心理と習慣に合致し、大変好評を博しました。

図表18は花知晓バレンタイン限定プロモーションの告知ビジュアル

画像出典:ネット

また、日本人女性は商品を本格購入する前にサンプルを試すことを好む傾向があります。花知晓はこの特性に合わせ、日本の女性向け人気雑誌『ViVi』と提携し、雑誌購入者にコスメのサンプルをプレゼントするキャンペーンを実施しました。合計10万個のサンプルを提供し、多くの潜在顧客の興味を引きつけ、消費者の参加意識とブランドへの親近感を大いに高めました(図表19は花知晓×ViViの「雑誌購入でサンプル進呈」キャンペーン告知)。

図表19は花知晓×ViViの「雑誌購入でサンプル進呈」キャンペーン告知